i
シネマカルチャーCinemaCulture INTERVIEW







■INTERVIEW
――フェミニンでソフトなキャラクターのなかに存在する強さ――
12月15日(金)公開『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』
アントニーナ役のジェシカ・チャステインが語ったこと――オフィシャル・インタビュー
ナチス・ドイツが侵攻する第二次大戦下のポーランド・ワルシャワの動物園を舞台に、300人ものユダヤ人の命を救った夫婦の物語。
ノンフィクション小説を映画化した実話物語で、映画化にあたってはとくに妻のアントニーナにスポットが当てられている。
監督は『クジラの島の少女』のニキ・カーロ。
ヒロイン、アントニーナを演じたジェシカ・チャステインが語ったオフィシャル・インタビューを紹介。               (2017年12月11日 記)
<実在の人物を演じるときは、物語に敬意をはらいたい>

■脚本を送ってもらい初めてこの話を知りました。読んでいる時もこれが実話なのかどうかわからなくグーグルで調べました。その後、原作本を受け取って驚いたのは、脚本がすごく原作に忠実に書かれていたことでした。もちろん映画なりの脚色もありました。たとえば本の中では彼女は日記に「ハックは自分に気がある」と書いていますが、一方、ハックの日記で明らかなのは彼がアントニーナを尊敬していること。それが映画では三角関係という形で描かれます。
でもハックがバイソンを繁殖させたいと思っていたことや、それに情熱を注いでいたことも事実でした。また映画の終わりのほうで彼女の息子が連れて行かれてしまうのも本当の話です。ハックではなくほかの兵士にですが…。脚本が原作に忠実に描かれているのは嬉しいことでした。実在する人物を演じるときは家族を尊重し、可能な限り物語に敬意を払って描きたいと思っているからです。

(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

<第二次世界大戦を舞台にしながらいまも共感できるメッセージ>

■難民の問題など映画で描かれたさまざまなテーマはいまの私たちにとっても意味があると思います。「もし自分が第二次大戦中に生きていたら、どうしていただろう?」と思う人もいるかもしれません。
アントニーナはありきたりの女性でした。でも彼女は予想を超えて見知らぬ人たちに扉を開けた。自分の子どもたちの安全を犠牲にしてまでもほかの人たちの命を救うことが大事だと思ったのです。それは私にとってすごくインスピレーションを得ることでした。
また、檻のなかに閉じ込められるとはどういうことかも考えました。ワルシャワは“檻”も同然だった。人間であるということは、また動物であるということはどういう意味があるのか、ということも描かれています。生きているものすべてに敬意を表するべきだと。ひとが生き物を“物”として所有する権利はないのです。
そしてここには女性の解放に関しても描かれているように思います。1939年、映画の冒頭でアントニーナは夫を支えるおとなしい女性で、彼の陰にいるような存在でした。ところが物語が進むにつれてより責任を与えられ、家庭のリーダーになっていく。夫が不在の間は彼女が人々を守ります。ですから映画の終わりには夫との立場が平等になっているのです。

(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

<役づくりにいちばん役に立ったのは家族について学ぶこと>

■役づくりにあたっては、もちろんユダヤ人迫害関連の映画をいくつか観ました。『シンドラーのリスト』(93年)、『ピアニスト』(01年)、『ソフィーの選択』(79年)…。でも役づくりのために一番役に立ったのは、家族について学ぶことでした。なぜならこの映画は、これまでの作品とは違うものになることが分かっていたから。映画のテーマは、ダークな時代における愛の力と思いやりについてだと思います。そしてダークな時代における女性のヒーローについてでもあります。それと動物に関して。戦時中、動物や女性や子どもたちにいったい何が起きていたのか、そのことについてこれまではしっかりと描かれてこなかったと思います。ですから私にとっては、この物語の家族に会うことはとてもに大切なことでした。ワルシャワに行き、主人公夫妻の娘さんにお会いしました。
彼女は両親が彼女に話したことをしっかりと覚えていました。また動物園を再開する過程なども覚えていました。戦後ロシアに占領されたため、家族はワルシャワ動物園を去らなくてはならず、それに関する悲しい思い出も持っていましたが、でも彼女は子どもの頃にこの美しい場所で過ごすことができたわけです。
彼女と話したことで両親の関係性や、アントニーナが動物といかに一緒に暮らしていたのかもわかりました。動物たちはまるで自分たちの家かのように、家の中を普通に行き来していたといいます(笑)。ですから子どもたちは、動物を兄妹のように思いながら育ったそうです。

(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

<アウシュヴィッツの悲惨さを目の当たりに>

■アウシュビッツにも初めて訪れました。子どもたちの靴など……あまりにも悲惨でした。アントニーナ自身は強制収容所で何が起きているのか知る術もなかったけれど、その場に立ったときにどう感じるのかを確かめておきたかったからです。
それと、彼女は動物と接する素晴らしい能力を持っていたので、その能力を自分のなかでも養っておきたいと考えました。そうすることでセットにいる動物たちに安心感をあたえ、動物たちとのラブ・ストーリーを描けると思いました。

■また、アクセントも大事なことでした。アントニーナは、ロシアのサンクトペテルブルグで生まれ育ちました。両親が殺されてポーランドのワルシャワに移り住むわけですが、若かったけれどすでにおとなの女性になっていた。ですから私は、アントニーナを難民として演じることが大切だと思いました。彼女には独特のアクセントがあって、ほかの人たちより少しゆっくりと話します。ときどき話を止めたりもするんです。そうすることで、そこが彼女の故郷ではないということを示したかった。彼女自身も移民であることを示したかったので、ロシア語の影響があるアクセントにしたわけです。声もわたしの地声より少し高くして、より女性らしさを強調してみました。それとピアノも一から練習したんですよ!。この映画のためにものすごく色々やったということです(笑)。

(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

<愛を武器に戦うアントニーナ>

■これまでの映画で描かれてきた“ヒーロー像”というのは強靭で、見るからになにかに立ち向かっていくような人。けれどアントニーナはいわゆる戦う人とは違う。でも戦わないことのほうが勇気があることもあると思います。言い換えると、彼女は愛で戦っているんですね。愛を武器に嫌悪と戦っている。そういう姿勢って、多くの人に広がっていくものだと思います。アントニーナとヒトラー直属のヘックの関係性が映画の終わりにどうなるのかも、それを表わしていると思います。彼が彼女を脅したとき彼女は、「それは本当のあなたではない。わたしは本当のあなたを知っている」と言いいます。彼女は彼の権力を恐れているけれど、人間としては尊敬しているのだと思います。

(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

■この役を演じるにあたって私は、社会において人々が何を勇気で何を強いと思っているかを、自分の中で再構築しなくてはいけませんでした。というのも、これまで勇気や強さは、男性らしさとともに描かれることが多かったと思うから。けれどいま私たちは2017年に生きているわけです。性別に関する概念の境界線がより曖昧になっていると思います。”ジェンダー・フルイディティ“(=セクシャル・フルイディティ)という言葉があるくらいです。すごくソフトで女性らしくあってもリーダーになれる時代ですし、野心を持てる時代だと思います。逆に男性もデリケートで思いやりのある人であることができる。それでいて勇敢で強くもあれるわけです。そういうさまざまな要素が、いまはうまく融合していると思います。それがまず、私がこの役を演じるうえでエキサイティングだったところでした。

■私はこれまでいろいろな女性を演じてきましたが、どの女性も強い女性だった。というか、女性って本来だれでも強いから(笑)。
だけどアントニーナを演じるにあたり初めて、ソフトな部分を探求できたことがすごく面白かった。たとえば、彼女の娘さんと話した時に、「母がパンツ姿のところを一度も見たことがない」と言っていました。それから、「もし母が動物だとしたら、きっと猫だと思う」とも。夫が彼女につけたニックネームは「プンニャ」。それは子猫という意味だそうです。アントニーナについてリサーチすればするほど、彼女がいかにダークで攻撃的な時代にソフトさとフェミニティを作り上げていたかがわかりました。愛やソフトさ、思いやりのなかにある強さを演じることはとても面白い挑戦でした。

                          ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命
                               THE ZOOKEEPER'S WIFE

■Staff&Cast

監督:ニキ・カーロ 原作:ダイアン・アッカーマン「ユダヤ人を救った動物園 ヤンとアントニーナの物語」 脚本:アンジェラ・ワークマン
出演:ジェシカ・チャステイン/ヨハン・ヘルデンベルグ/ダニエル・ブリュール/マイケル・マケルハットン
2016年イギリス=アメリカ=チェコ(127分)
配給:ファントム・フィルムズ
原題:THE ZOOKEEPER'S WIFE
2017年12月15日(金)からTOHOシネマズ みゆき座ほか全国順次公開
©2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

■ジェシカ・チャステイン JESSICA CHASTAIN

1977年、アメリカ・カリフォルニア州出身。ジュリアード音楽院の演劇部門を卒業後、舞台を中心に活動。TVドラマシリーズ「ER緊急救命室」(04年)、「ヴェロニカ・マーズ」(04年)などに出演後、映画デビュー。その後、テレンス・マリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』(11年)でブラッド・ピットの妻役に抜擢され、同作はカンヌ映画祭で最高賞のパルムドールに輝いて注目された。さらに『ヘルプ~心がつなぐストーリー~』(11年)でアカデミー賞助演女優賞候補、『ゼロ・ダーク・サーティ』(12年)ではゴールデン・グローブ賞とアカデミー賞にノミネートされて着実にキャリアを重ねている。ほかに『インターステラー』(14年)、『オデッセイ』(16年)、『女神の見えざる手』(17年)など。





  映画ファンのための映画サイト
   シネマカルチャーdigital

Powerd by Contrescarpe(1998-2006 Cinema-joho.com/2017- CinemaCulture)
Copyright(c)Contrescarpe/CinemaCulture.All rights reserved.
info@cinemaculture.tokyo